利益調整―発生主義会計の光と影

桜井 久勝

定価(紙 版):3,300円(税込)

発行日:2023/03/01
A5判 / 236頁
ISBN:978-4-502-45111-9

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本の紹介
本書は、発生主義会計の優位性の源泉と、その潜在的な弱点を把握したうえで、財務会計に期待される利害調整機能と情報提供機能に対して、利益調整が及ぼす影響について考察。

目次

第1章 利益調整
 第1節  利益調整とは
 第2節  赤字決算の回避
 第3節  V字回復の演出
 第4節  利益成長の演出
 第5節  利益調整をめぐる諸見解
 第6節  本書の構成

第2章 発生主義会計の優位性の源泉
 第1節  発生主義会計の理念
 第2節  ペイトン・リトルトン『会社会計基準序説』
 第3節  シュマーレンバッハ『動的貸借対照表論』
 第4節  収益費用アプローチと資産負債アプローチ

第3章 発生主義会計の潜在的な弱点
 第1節  現金主義情報としてのキャッシュ・フロー計算書
 第2節  キャッシュ・フロー計算書の基礎概念
 第3節  キャッシュ・フロー計算書の作成
 第4節  会計発生高
 第5節  利益調整の手段
 第6節  利益調整部分の推定

第4章 財務報告の機能と制度
 第1節  情報の非対称性
 第2節  制度会計の体系
 第3節  概念フレームワーク

第5章 利害調整機能
 第1節  利害対立の帰結
 第2節  雇用契約-株主と経営者の利害調整
 第3節  債務契約-債権者保護
 第4節  利益の品質が利益調整に及ぼす影響

第6章 情報提供機能
 第1節  投資意思決定有用性
 第2節  利益業績の変化と株価動向
 第3節  決算発表に対する市場反応
 第4節  不確実性リスクの評価
 第5節  企業価値評価モデル
 第6節  キャッシュフローと利益情報の優劣比較

第7章 効率的市場仮説
 第1節  効率的市場仮説とその含意
 第2節  仮説の現実妥当性
 第3節  価格が情報を織り込む迅速度
 第4節  価格が情報を織り込む完全度
 第5節  仮説の近似的妥当性

第8章 利益調整による株価形成の誤導
 第1節  裁量的発生高のアノマリー
 第2節  利益調整の反転
 第3節  マーケット・マイクロストラクチャー研究
 第4節  情報精通者と非精通者
 第5節  情報精通者の取引によるアノマリーの消滅

第9章 財務報告の制度設計
 第1節  制度設計の視点
 第2節  会計基準
 第3節  会計ビッグバンは成功したか
 第4節  公認会計士監査
 第5節  制度設計への示唆

第10章 株価・会計情報研究の役割
 第1節  口実の市場
 第2節  効率的市場への貢献

著者紹介

桜井 久勝(さくらい ひさかつ)
[プロフィール]
1975年 神戸大学経営学部を卒業し、神戸大学大学院経営学研究科へ進学。
1977年 公認会計士試験第三次試験に合格。
1979年 神戸大学助手。その後、講師・助教授を経て
1992年 神戸大学より博士(経営学)の学位を取得。
1993年 神戸大学教授。
2016年 関西学院大学教授。
2019年 公認会計士・監査審査会会長
2022年 昭和女子大学特命教授となり現在に至る

[主な著作]
『会計利益情報の有用性』千倉書房,1991年
『財務会計講義』中央経済社,初版1994年,第24版2023年
『財務諸表分析』中央経済社,初版1996年,第8版2020年
『会計学入門』日本経済新聞出版社,初版1996年,第5版2018年
『財務会計・入門』共著,有斐閣,初版1998年,第16版2023年
『テキスト国際会計基準』編著,白桃書房,初版2001年,新訂版2018年

担当編集者コメント
財務会計の情報提供機能と利害調整機能にかんする学界の研究成果を、「市場の効率性促進」という公的利益の視点から統合したダイナミックな研究成果

〇本書のねらい(はじめにより)
本書は、発生主義会計の優位性の源泉と、その潜在的な弱点を把握したうえで、財務会計に期待される利害調整機能と情報提供機能に対して、利益調整が及ぼす影響について考察している。
利害調整機能については、主として株主と経営者の利害関係に焦点を当て、利益調整がエイジェンシー・コストに及ぼす影響について分析している。
他方、情報提供機能に関しては、企業による利益調整が市場での株価形成を誤導している可能性を中心に、多数の実証分析の結果を集約しつつ、効率的市場仮説の近似的な現実妥当性について考察している。
併せて、会計方針や会計上の見積りをめぐる財務報告の制度設計に対する含意や、過大な利益調整を牽制するために公認会計士が果たすべき役割、および学術研究論文によって惹起される裁定取引が価格形成の効率性を高めて市場機能を促進する可能性にも言及する。

〇本書の特徴
本書は、財務報告に関係する企業経営者・公認会計士・証券アナリストなどの実務家、財務会計の勉学を始めた学生や研究者を目指す人々、経営学・経済学・法律学など隣接分野の研究者など多様な読者に関心をもってもらうことを期待して、次のように論述スタイルが工夫されています。
①当該分野の専門家にとっては自明の知見であっても、できるだけ初歩的な説明から記述を始めていること。
②論点を具体化するために、仮設計算例を数多く利用していること。
③学術研究の手法を遵守した実証研究を通じて蓄積されている科学的な証拠を要領よく収録していること。

本書の学術的な意義は大きいことから会計研究者(大学院生も含む)は必読でしょうし、他分野の研究者にも有益な内容です。
また、上記の本書の特徴のように、実務家の方々にも読みやすくする工夫がされていますので、これらの方々にも大きな示唆が得られるのではないかと思います。

特に大学院生や大学生の方々は、本書を半年もしくは1年かけてゼミ等で腰を据えて読み込んで、そして議論するとより理解が深まるのではないでしょうか(そんなゼミがあればぜひ参加したいです、はい)。

序文にもありますが、本書は古希を迎えた桜井先生のこれまでのご研究や公認会計士・監査審査会でのご公務をうけた現時点での集大成になります。
まだまだ研究を続けられるとありますので、今後のご研究にも期待したいですね。

ぜひぜひご覧ください!