企業統治の会計史―戦前期日本企業の所有構造と会計行動

小野 武美

定価(紙 版):4,070円(税込)

発行日:2021/06/22
A5判 / 164頁
ISBN:978-4-502-39121-7

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本の紹介
戦前日本企業における企業統治の在り方、特に株式所有構造と会計行動の関係を検討した研究書。株主の意向や影響力が強まっている現代の問題を考える上でのヒントを提示する。

目次

序 章 戦前期の企業統治と会計行動への分析視座
1 「思考実験室」としての歴史的会計空間
2 戦前期日本に於ける株主主権の背景
 2.1 合本主義とレントナー的株主
 2.2 株主主権的経営の制度的要因
3 株主主権下での所有と経営の分離
 3.1 所有と経営の「関係性ある分離」
 3.2 残余利益と裁量的会計行動
4 企業の統治構造と会計行動

第1章 株主主権と会計行動―『株式会社亡国論』の会計学的読解―                           
1 粉飾決算論としての『株式会社亡国論』
2 「株式会社亡国論」で描かれた戦前企業の粉飾決算
  ■株式会社の財政的乱脈と其対策(第三章)
  ■蛸配当横行の実際と其対策(第四章)
  ■重役腐敗の実相と其の対策(第六章)
3 戦前企業における「株主主権」とその財務的帰結
4 『株式会社亡国論』に見る株主主権と会計行動

第2章 戦前期財閥の会計に於ける所有者統制の構造
1 所有と経営の分離と業績測定権の委譲
2 財閥に於ける「所有と経営の分離」
 2.1 家業としての財閥の形成
 2.2 財閥における統治機関
3 持株会社=財閥本社による会計統制
 3.1 持株会社による統括・管理
 3.2 持株会社による会計統制
4 財閥に於ける私的規制としての会計統制

第3章 戦前期我が国株式会社の減価償却行動
1 株主主権と他律的会計行動
2 戦前期わが国企業の裁量的償却行動とその制度的背景
3 減価償却政策と償却行動
4 所有構造の類型と減価償却行動の連関
 4.1. 所有構造の類型
 4.2.所有構造と償却行動の関係
5 利益処分としての減価償却

第4章 日産コンツェルンの会計行動―公開持株会社と傘下企業の事例分析―
1 戦前持株会社の所有構造と会計的機能
2 公開持株会社・日本産業と日産コンツェルンの展開
 2.1 日産コンツェルンの成立
 2.2 日産コンツェルンの管理形態
3 日産コンツェルンに於ける利益分配・配当吸引行動と利益比例的減価償却
 3.1 日本産業の利益分配と配当吸引
 3.2 日産傘下企業の利益比例的減価償却
4 公開持株会社の会計的帰結

第5章 新興コンツェルンの会計行動―戦前期事業持株会社の事例分析―
1 戦後の事業持株会社の先行形態としての「新興コンツェルン」
2 新興コンツェルンに於ける事業展開と事業会社の持株会社化
3 新興コンツェルンに於ける財務と会計の連動
 3.1 新興コンツェルンの金融構造
 3.2 コンツェルン金融に於ける減価償却行動の展開
4 新興コンツェルンに見る親会社中心主義

終 章 歴史研究から見た過去と現代の交錯―会計に於ける株主主権の発動と遮断―
1 戦前における株主主権の発動と遮断
 1.1 所有者支配企業と会計行動
 1.2 法人大株主企業に於ける株主主権発動形態の諸相
2 戦後における株主主権の発動と遮断
 2.1 株式持合とデット・ガバナンス
 2.2 支配的株主としての親会社
3 戦後の「古層」としての戦前
 3.1 「企業集団」と財閥
 3.2「親子型企業グループ」と新興コンツェルン

著者紹介

小野 武美(おの たけみ)
[プロフィール]
1956年8月 埼玉県出身
1980年3月 京都大学経済学部卒業
1986年6月 京都大学大学院経済学研究科博士後期課程退学
1986年7月 名古屋市立大学経済学部助手、その後同専任講師、同助教授を経て
1992年4月 東京経済大学経営学部助教授
1997年4月 東京経済大学経営学部教授
京都大学博士(経済学)、税理士試験 試験委員(第55回・56回·57回)
現在、総務省電気通信紛争処理委員会委員、総務省研究開発法人審議会専門委員
日本会計史学会会長

[主な著作]
『企業会計の政治経済学―会計規制と会計政策の動態分析―』白桃書房, 1996年
『外貨換算会計』新世社,1998年

担当編集者コメント
〇本書のねらい
本書は、我が国の戦前企業における企業統治の在り方、特にその所有構造と会計行動の連関の一端を検討しています。
現代の制度的な枠組みが出来上がる前に展開されていた過去の会計現象では、様々な利害関係者の剥き出しの利害に基づく会計政策が展開され、規制のない空間で自由な会計思考が繰り出される姿が縦横に展開されています。
つまり、自由な会計がどのように行われるのかを見せてくれる「思考実験室」が用意されているといえるでしょう。
そして、そこで基準や制度に制約されない「会計の本質」を垣間見ることが出来るのです。
本書では、我が国戦前期の会計現象を取り上げ、そこに繰り広げられた会計の状況を考究しています。
そうした過去の会計状況の検討を通して現代の会計問題を考える上でのヒントを提示しています。